『マーガレットは植える』松田青子
「マーガレットは悲しみを植えた。マーガレットは不安を植えた。マーガレットは後悔を植えた。マーガレットは恐怖を植えた。マーガレットは恐怖を植えた。マーガレットは恐怖を植えた。マーガレットは恐怖を植えた。マーガレットは恐怖を植えた。」
この小説が発表されたのは2012年。松田青子が東日本大震災を想い、紡いだ物語である。
松田青子の文章を初めて読んだ時、その言葉の使い方の自由さに新鮮さを覚えた。同じ文章が5文続く。この文章の中だけでマーガレットという固有名詞が8回も登場する。歌でもリフレインがあるように、繰り返すことによってメッセージが増幅されるのであろう。この短編の重要なテーマも「反復」であるように感じられる。
人と働くことに疲れた主人公のマーガレット。ただ、仕事には飽きていない、仕事はしたい、一人で出来る仕事を。ある日彼女に打ってつけの仕事を見つける。それは何もかもを「植える」仕事だった。最初は綺麗な物、心安らぐ物、カラフルな色を。とてもゆっくりと気持ちよく植える。突然それらが醜い物、心をかき乱す物、泥水へと変わる。植えるスピードはどんどん速くなる。負のものは「埋めたい」のだが、「植える」ことしかできない。憎しみ、悲しみ、怒りは「植える」ことで増幅されていく。根が縦横無尽に拡がっていき、自己増殖を遂げていく。負の連鎖は止められない。「埋める」ことができたらどれだけ楽であろうか。埋めることができれば、汚いものを見なくてすむ。ただそれは許されない。
ある時、マーガレットの成長が垣間見られる。「マーガレットは目をそらさなかった。まっすぐ恐怖を見つめた。」
人間はどうしても恐いものから目を背けたくなるものだ。恐怖に対して目を背けるのではなく、恐怖と対峙すること。大きな一歩だ。この物語の言語を通して、また、主人公の仕事の動作を通じて、反復の重要さ、意味を考えた。とにかく、手を動かすこと、繰り返すこと、続けること、焦らずゆっくりと。明日できることは明日やればいい。人生はまだまだ続くのだから。辛いこともまだまだ続くのだから。ただ、それこそが、希望の種となるのであろう。
“Planting” by Aoko Matsuda
“Marguerite planted sadness. She planted anxiety. She planted regret. She planted fear. She planted fear. She planted fear. She planted fear. She planted fear.” “Planting” was published in 2012, inspired by the Great East Japan Earthquake. What makes Matuda’s language unique is its rhythm and repetition. When I first read her story, I was surprised by her style, free from the conventional usage of Japanese. The protagonist’s job is to plant. At first, she plants something beautiful, colorful, and heart-warming. All of a sudden, those pleasant items turn into something repulsive, grotesque, and macabre. She’s only allowed to “plant” things, however much she wants to bury them. By planting, the roots spread all over and hatred and fear get amplified incessantly. I find repetition is one of the most important elements of this story. Repeated words and phrases make their meanings magnified. At the same time, the repetitious act of “planting” seemingly brings some kind of hope. The key to facing fear is probably repetition, which could simply mean moving our hands, taking walks, or doing our routine. The rhythm born out of it could lead to something buoyant.
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