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『小屋のある屋上』川上弘美

「あれはただ、いろいろなことを見てしまった顔だ。いつか源さんに感じたのと同じことを、その時も思った。いろいろなことなど、見たくない。つくづく、思った。でも、見なければ、生きてゆけない。そのことを残念ながら、わたしはいつしか知るようになっていた。ここまで生きてきた、そのあいだに。」

川上弘美の文章は哲学的だ。何気ない一文が読者を立ち止まらせる。考えさせる。


電子書籍と本

ピカソとジャン・コクトーが映った白黒の写真がこの短編の鍵となっている。平蔵と源、同じ一人の女性を愛したもの同士が持つ顔。主人公は離婚経験のある42歳の女性、唐木妙子。予備校で英語を教えている。商店街の近くに住んでおり、お節介なおじさん、おばさんに囲まれながら、日々を生きている。魚屋、八百屋、鳥屋と、大型スーパーとは違い、濃密な人間関係が描かれる。魚屋の平蔵と20年以上一緒に住んでいる源。二人の独特な関係が商店街の噂で明らかになっていく。唐木は5歳年下の同じ予備校の国語教師、久保田学と付き合っている。彼女はなじまない他人が同じ屋根の下にいると、いっさい睡眠をとることができない。離婚した相手の場合も、それが原因で別れた。そして今付き合っている久保田の隣でも、彼の教え子の自殺未遂をきっかけに眠れなくなっていく。


主人公は、相手が何を経験した(している)のか、何を考えているのかわからないから、どんどん不安になり、眠れなくなるのかもしれない。この短編はその不安な気持ちを、不安なままに誰かと共有することでしか、いやむしろ重ね合わせることでしか、人間は生きていけない、ということを伝えているような気がした。人間は年を重ねるごとに、見たくないことを見ていく。その経験は顔に刻まれていく。


20年前に妻を亡くした平蔵、そしてその妻の愛人であった源。同じ女性を愛したという事実を共有することで、日々を過ごしていく。各人が経験したものはその本人特有のもので、他の人が理解することはできない。でも、それらを他の人と重ね合わせることはできるのではないか。商店街の濃密な人間関係の中で、否が応でも人と共有することを余儀なくされていく主人公。徐々に自分を変容させていく。


「互いを見合うでもなく、かといってカメラに視線をやるでもなく、二人して、ぼんやりと彼方を眺めている」

 

“The Hut on the Roof” by Hiromi Kawakami


The protagonist is 42 years old and divorced. She lives near a shopping street (shotengai), where a fishmonger, a greengrocer, a chicken shop owner meddle with her life. As opposed to supermarkets, people’s relationships are more intimate there. She is unable to sleep well next to a man unfamiliar to her, which is why she got divorced. Although she’s dating with another man now, she gradually gets not to be able to sleep beside him either.


I believe it’s partly because she can’t understand what the other person has experienced. Probably, we cannot really understand what other people have experienced. However, we could at least share or rather make them overlap with each other. That way, we can continue to live. This story seems to be conveying that message. There appears a man who lost his wife in the story, who now lives together with another man who was once her lover. They share what they lost. Also, the protagonist is forced to share her life with people in shotengai, and gradually changes.


With Kawakami’s crisp prose, masterful depictions of shotengai, and philosophical touch, this is a wonderful read.

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