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出だしの一文が素晴らしい一冊。『蛇を踏む』📚by 川上弘美

『蛇を踏む』川上弘美


芥川賞受賞作。タイトルに惹きつけられた。ドキッとする。蛇は太宰治の『斜陽』でも重要なモチーフになっている。通常、蛇は畏怖の念を抱かせるもの。それを「踏む」のだ。


「ミドリ公園に行く途中の藪で、蛇を踏んでしまった。」


出だしの一文である。「踏んだ」のではなく、「踏んでしまった」のだ。うっかりと。ただ、偶然にしては次の描写と辻褄が合わない。「蛇は柔らかく、踏んでも踏んでもきりがない感じだった。」この表現の中に、執拗さ、冷たさ、強い意思が透けて見える。


その蛇は50歳くらいの女性となって現れ、主人公の帰りを待っている。一緒にビールを飲んだり、つくねを食べたり、抱きつかれたりする。その女は自分のことを主人公の母親であると言い張る。その自称母親から「いつまでたっても知らないふりばかり」と指摘され、窮地に追いやられる。主人公は4年務めた女学校の理科教師を辞めていた。その本当の理由は?


「きらいだったの」

「何が」

「教えること」

「ほんとう」

「……」

「違うんじゃないの」

「違うかもしれない」


「教師に対して生徒が何か求めてくることは少なかったが、求められているような気がしてきて、求められないことを与えてしまうことが多かった。与えてからほんとうにそれを自分が与えたいのか不明になって、それで消耗した。与えるという気分も嘘くさかった。」


普通の人と接する時にある壁が、蛇との間にはなかった。


「蛇と私の間には壁がなかった。」


遂に小さな蛇が主人公の耳から何匹も入ってくる。


「私の指先もくちびるもまぶたもてのひらも足の裏もくるぶしもふくらはぎも柔らかな腹も張った背中も毛根という毛根もすべての外気に接するところが蛇を感じて粟立つ。」


何度も蛇の世界に誘われるが、主人公はそれに応じない。

「私の奥にある固いものがどうしても私を蛇に同化させてくれない。」


最終的に首の締め合いになるが、お互いに譲ることはない。


「『蛇の世界なんてないのよ』できるだけはっきりとした声で言った。遂に言ったと思った。今まで不明にしてきたことを不明でなくした。」


蛇は何を表象しているのか。娘と母の葛藤であろうか?それとも自分自身の鏡であり、本音なのだろうか?人間は社会的な動物である。他人との人間関係の中でしかやっていくことはできないし、本音と建前は必ずある。純粋な本音の世界を蛇が象徴しているのだとしたら、それは慰撫するものであるのと同時に、厄介なものでもあろう。永久に本音と建前とがせめぎ合う。


川上弘美の文章は歯切れよく、明晰で、リズムが良い。句読点なしの息の長い文章が時折織り込まれるのも素晴らしい。この独特な不気味さも病みつきになるかもしれない。


“Stepping on a Serpent” by Hiromi Kawakami


Kawakami was awarded with the Akutagawa Prize for this work. I was drawn to the title itself. In Japan, serpents are often believed to be sacred and noble. In “the Setting Sun” by Osamu Dazai, a serpent appears as such.


The story begins with the protagonist stamping on a serpent. It turns into a 50-year-old woman, which claims to be her mother. It waits for her to come home to drink beer and eat food together. The protagonist was a teacher for 4 years but quit. In front of this metamorphosized woman, she was compelled to tell the truth. In the end, the protagonist and the serpent strangle each other...


It is very much a Kafkaesque story. What does the serpent represent? Would it symbolize the conflict between the daughter and mother? Would it be true feelings which are not supposed to be on the surface?


Kawakami’s prose is crisp and clear. I like the surrealistic and enigmatic atmosphere this work encompasses.



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