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津島佑子『あまりに野蛮な』

2008年に発表された津島佑子渾身の純文学。津島佑子の扱ったテーマは幅広い。特にマイノリティの人たちに光を当てた作家であった。この作品では旧植民地である台湾を、『ジャッカ・ドフニ』ではアイヌの人々を、『ヤマネコ・ドーム』では占領時のアメリカ兵士と日本人の間に生まれた混血児を描いた。谷崎潤一郎賞や女流文学賞などあらゆる文学賞を総なめにした。津島氏の作品は様々な言語に翻訳されており、世界中に津島ファンがいる。


この物語では、主人公が台湾の阿里山を訪れる。前の連休に阿里山への旅を企画したので、この小説を持っていった。津島佑子の足跡を追体験したいという思いがあったのかもしれない。阿里山の初日の出を拝むことはできなかったが、津島佑子の文章を阿里山で読むことができたのは特別な体験だった。

その後、阿里山の次にたまたま日月潭に寄ることになったのだが、以前からずっと行こうと思っていた九族文化村(原住民の人たちの生活を知ることのできる文化施設)へと足を運んだ。その後物語を読み進めていくと、なんと17年前の九族文化村に主人公が訪れた顛末が描かれている。実体験が小説のプロットを追っていくという稀有な経験を味わった。


この小説は1930年代前半の台北(タイホク)と2005年の台北(タイペイ)で展開される。植民地下のタイホクにおける主人公は美世(通称ミーチャ)、2005年の主人公はミーチャの姪っ子茉莉子=リーリーである。ミーチャの結婚相手は明彦。社会学者でフランスにも滞在していたことがあり、専門はデュルケーム(主に自殺論)。パリに住む前に東洋のパリ(当時はそう言われていたのだろうか?)である台北に住むことになり、明彦は高等学校でフランス語を教える。


70年前の叔母に想いを馳せながら台湾に渡るリーリー。中国語がわからない中、飲み物を買うのも一苦労。購入したカフェラテをこぼしてしまい、赤面するが、店員は素っ気なく新しいものを彼女に与える。それに対して、何度も謝るリーリー、気に留めない店員。九族村で最終のバスを見逃してしまい、そこで働いている原住民の家族の車に乗せてもらうことになる。淡々と家まで送り届ける。どちらも、台湾側に甘えがない。当たり前のことをしたまでだよ、と。この箇所は台北に住んでみてよくわかった。日本のような甘えのコミュニケーションはない。困っている人がいたら助ける、それ以下でも以上でもない。


この小説は、時と場所が交差する物語だ。1930年代のタイホクと2005年のタイペイ。そして台湾、日本、フランスが交わる。その縦軸横軸をプロットが右往左往する。


「山の人たちが住む「蕃社」、そこからは天界を突き刺す主峰が見えるにちがいない。神という存在を唯一ミーチャに感じさせてくれる峰々。その山腹を自在に走る人たちの姿。木々を吹き抜ける山の風。いろいろな動物の声、鳥の声。そして、ララの大木。せめて、奇莢山を、あるいは能高山を一度でも拝むことができたら、そうしたら台湾に自分が来たことをすなおに感謝できそうな気がしてならなかった。」

台中には3800メートル級の山々が連なっている。台湾のイメージはデジタル、半導体だと思うが、実は中間部は電車が通れないほど、山々が立ちはだかっているのである。今回の旅で初めて玉山(台湾最高峰3952メートル)を拝むことができた。富士山のように一つの山が独立してあるのではなく、高い山々が連峰をなしている。樹齢1500年以上の木々に囲まれ、その神々しさ、荘厳さに打たれた。


「東京の大学にいる上の弟からも、「霧社事件」について自分が仕入れた情報を熱心に書き送ってきた。せっかくミーチャは台湾にいるのだから、このような事実をもっと真剣に考えなければならない。」

当時日本政府は原住民の統治に手を焼いた。特に「首狩り族」と読んでいたタイヤル族のセイダッカ部族との衝突は日本の歴史の闇の部分である。九族文化村にてプユマの村を訪れた際、原住民の衣服を纏った60代ぐらいの男性がいた。日本人(リーベンレン)だというと、「(私の)おかあさんは98歳です。」と流暢な日本語で返ってきた。98歳ということはミーチャとそれほど変わらない年だ。つい出来心から、「お母様は、日本についてどう思われていますか」と聞いてしまった。その瞬間、その流暢な日本語は突然身を潜め、口籠ってしまった。言葉に言い表せないほどの何かがあったのであろう。


「ミーチャが今まで思いもよらなかった種類の文章が、どの時代にも、どの国でも、書きつづけられてきた。そんな文章をつぎつぎと読んでいけば、どんなに世界が広がり、新しい喜びを知ることができるだろう。そう、思いもよらなかった種類の文章がこの世界には無数にあるのだろう。それを考えただけでもわくわくする。」

そう、まさにこの文章がそうであるように。思いもよらなかった種類の文章にこれからも出会いたい。1930年代、2005年、2022年、3つの時間軸でフィクションと実体験がリンクした特殊な体験だった。下巻が手元にないので、日本で買わねば。。

 

“All Too Barbarian” by Yuko Tsushima Yuko Tsushima was a writer who shed lights on minorities such as single mothers, indigenous peoples, and interracial children. In the story, the protagonist visits Alishan Mountain Range (famous for hiking and the sunrise). I’d always wanted to go to Alishan myself, so it inspired me to actually go there. It would be nice to follow the footsteps of the protagonist in the story. My original plan was to go straight back to Taipei after visiting there. However, I eventually changed the plan and decided to go to Formosan Aboriginal Culture Village. The following day after I visited that facility, I found out the protagonist also goes there. It was such an enigmatic experience. The character in the story followed my footsteps.


This village is sort of an open-air museum where we can learn about aboriginal peoples in Taiwan. When Taiwan was under Japan’s colonization, indigenous peoples were forced to learn and speak Japanese. One of the people I talked to there was the Puyuma and in his early 60s. After he knew I was Japanese, he spoke fluent Japanese to me. I hear that there are also some people who use creole of Japanese and their native language. Certainly, behind this unusual development lies a deep and complex history, which I have to know more and face as a Japanese. You may have the image of Taiwan being a high-tech society. Yes, that’s very true, but at the same time Taiwan is also well known for hiking and cycling. The highest mountain called Mt. Yushan is 3952 meters high. The middle parts of Taiwan are concentrated by mountains, so there exist almost no railways. This time, I was lucky enough to have been blessed with awe-inspiring nature. Many of the trees in the mountains I hiked were over 1500 years old. Timewise, the story unfolds in two Taipeis, one in the 1930s under Japan’s colonization and the other in 2005. Geographically, the story unravels itself ubiquitously in Taiwan, Japan, and France. Tsushima provides readers with such a magnetic narrative thread from which to hang all the complicated and yet intriguing elements. This is a must-read to know about Taiwan and Japan.


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