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Ikuya Takahashi

『告白』湊かなえ

2008年の著者のデビュー作だ。本屋大賞を受賞、松たか子主演で映画化もされている。黒田龍之介氏が日本語学習者に本書を勧めていたことがきっかけで、手に取った。


とにかく飽きが来ず、素晴らしいミステリーで、どきどきしながら最後まで一気呵成に読み終えた。本のタイトル通り、物語はある教師の告白から始まる。合計7年間中学校の教師として勤めてきたが、教員生活の最後の日を迎える。その直接の原因は4歳になる娘の死だった。死の裏に潜んでいる謎が次々と明らかにされる。ストーリーは様々な登場人物の独白から成る。人は何故そのような行為に至るのか、様々な糸のもつれがある。子供にとっての母親、「熱心な」教師、少年法の矛盾、集団心理、復讐。ぐいぐいその世界に引きずりこまれる。


一つの事実に対するそれぞれの当事者の想いが語られる。食い違う部分からヒントを得られることもある一方で、そもそもその語り手を十全に信じていいのかわからないこともある。芥川の『藪の中』を彷彿とさせる。それぞれの語り手のそれぞれの真実がある。また、「真実」の中には語っている本人も気付いていない嘘が紛れ込んでいる。何が真実で何が嘘なのか、その判断は読者に委ねられている。湊氏の文章は黒田さんが太鼓判を押している通り、非常に読みやすく、お手本のような文章であった。


考えさせられた文章をいくつか引用したい。


「有名なスポーツ選手にもスランプの時期があるように、才能はある程度伸びたところで必ず頭打ちになります。実は、ここからが本当の勝負のしどころなのです。所詮自分はこの程度だ、とそのまま下降線をたどっていく人。あせらず、結果が出なくとも努力を続け、現状維持をする人。ここが踏ん張りどころとさらに努力し、次の上昇線に乗る人。」


そう、頭打ちになってからが勝負。続けられるというのは才能なのだろう。


「ふと私は、一人暮らしを始める時とき、母が私に日記帳を買ってくれたことを思い出した。『何かつらいことがあれば、お母さんはいつでも相談に乗るけれど、そんな気分になれないときは、一番信頼できる人に語りかけるような気持ちでこれに書いていきなさい。人間の脳は何でもがんばって覚えておこうと努力するようにできているけれど、何かに書き残せば、もう覚える必要はないのだ、と安心して忘れることができるから。楽しいことは頭に残して、つらいことは書いて忘れなさい。』」


この箇所は目から鱗だった。今まで書くことは記憶に残すためだと思っていた。なるほど、書くことで記憶から消すこともできるのか。書くという行為は多面性があって面白い。


「『罪と罰』や『戦争と平和』が母親にどのような影響を与えたのかはわからない。ただ読みながら自分が感じていることを、同じ血が流れている母親も感じていたのではないかと思えた。」


この気持ちはわかる。自分が感じていることをきっと他の人も感じているのであろうと思う感覚。本を通じて繋がっている感覚。


お勧めの一冊です。


 


“Confessions” by Kanae Minato


A stellar mystery. It was such a page-turner that I read it straight to the end in one-go. As the title suggests, this story begins with a confession of a teacher whose career of 7 years ends abruptly after her 4-year-old daughter died. It unfolds centering this enigmatic death. It is explained by different “confessions” of each character. This structure reminded me of “In a Grove” by Ryunosuke Akutagawa.


This story made me reflect on so many things: what is a mother to a child?; is a “dedicated” teacher a good teacher?; who is to blame for somebody’s perversion? It is in part inspired by famous serial killings of a 14-year-old (Boy A) in the late 1990s.


Mr. Ryunouske Kuroda, whom I admire, once recommended this book for Japanese learners. Minato’s Japanese is crisp, straightforward, and worth emulating. If you are a Japanese learner and want to read a book in Japanese, I would recommend it!



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