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『納屋を焼く』村上春樹

この短編を初めて読んだのは20年前。2023年のアメリカ向けディスカッションクラスでは、村上春樹の過去30年の軌跡を辿る試みとして、『納屋を焼く』(1992)、『トニー滝谷』(2002)、『Cream』(2019)を3回連続で扱う。 この作品がニューヨーカーに掲載されたのは1992年。今回ディスカッションを終えての感想だが、この『納屋を焼く』という作品は計算し尽くされた、非常に抽象度の高い作品だということだ。この短編の奥深さを改めて思い知った。20年前の僕は何を読んでいたのだろう。 主人公は作家で31歳、ガールフレンドは20歳、パントマイムが得意だ。1月に1度か2度食事をする仲で、彼女といると、とても気持ちが和らぐ。ガールフレンドは父親の死による遺産を元手に、北アフリカへと旅立つ。そこで中東事情に詳しい国際貿易に従事している若い男性(ギャッツビーを彷彿とさせる)と出会い、恋人の仲となる。このカップルがある日主人公の家へと押しかけ、ビールを次々と飲んでいく(30本程)。インド産のマリファナを吸いながらの男同士の対話。突然彼は言う。「時々納屋を焼くんです」

登場人物の年齢の設定、匿名の登場人物、バー、ビール、タフな男たち、これぞ村上作品という感じだ。ただ、やはりとても上手い。物語のストラクチャーも綿密に構成されており、寸分の狂いもない。 この短編のテーマは多岐に渡る。金、権力、倫理、観察者と実行者の境、喪失。何が(誰が)この世を支配しているのか。役に立たない納屋を焼いて何が悪いのか(倫理に反するのか?)。執拗なまでに焼かれるべき納屋を捜索する主人公。いつの間にか自分で納屋を焼きたくなってくる。観察者である主人公はあたかも共犯者のようだ。 「あまりも近すぎて、それで見落としちゃうんです」 主人公は納屋がすでに焼かれてしまっていることに気付いていない。ガールフレンドは突如姿をくらます。結局男性2人は自分たちにとってかけがえのないもの(ガールフレンド)を失うことになる。 納屋を焼くという行為が意味するものは?強者が弱者を抹殺するということ?あるいは個々人の中にある破壊衝動か?誰が誰を動かし、誰が納屋なのか、何が納屋なのか。納屋は主人公なのか。ガールフレンドも納屋なのか。空っぽなものは焼かれる運命にあるのか。 この頃の村上春樹の文章は緊張感が行間に漂う。ひりひりした文章が良い。今年は村上春樹作品を再訪しようと思う。そしてこの作品の映画とフォークナーの”Barn Burning”を読もう。

 

“Barn Burning” by Haruki Murakami We’ll be reflecting on Murakami’s evolution as a writer over the last 30 years while discussing 3 stories consecutively: “Barn Burning” (1992); “Tony Takitani” (2002) ; “Cream” (2019). I first read “Barn Burning” 20 years ago. Now that I’ve reread the story for the class several times and we’ve done discussion, I realize again and again how well-structured and fascinating it is. “Barn Burning” is about money, power, class, morality, the observed and observer, and loss. All of a sudden, a rich young man (like Gatsby) says “sometimes I burn down barns” to the protagonist, a writer. That leads the protagonist to look for a possible location of the barn which is set to be burned desperately. What drives him to do so to that extent? What does it mean to burn barns? Is the barn the protagonist himself? Does he not realize that his barn has always been burned? What is it that he has lost irrevocably? “What I’m trying to say is that the world is filled with these barns. You’ve got your barns, I’ve got mine.” I love it. I’m still a huge fan of Murakami.

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