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“Bee Honey” by Banana Yoshimoto

『ハチハニー』吉本ばなな


吉本ばななの『ハチハニー』を授業で扱った。舞台はブエノスアイレス。大統領府の前の広場で主人公は考える。過去と現在、日本とアルゼンチン、母親と夫。悲しみから逃れようとした主人公はとにかく歩く。考えないように。なるべく自分を空っぽにするために。日本から遠ければ遠い方が好都合のはずだった。


そこで偶然遭遇したのは、「白いスカーフのお母さん達の行進」。大統領府の壁はピンク色で、牛の血を混ぜて作った色。1970年代、軍事政権によるGuerra Sucia (汚い戦争)によって、学生、活動家、作家などが殺された。その数3万人。今やおばあさんとなった母親達は息子、娘の写真を掲げ、行進する。その母親達は悲しみから逃げるのではなく、真正面から向き合っていた。


国を超えた普遍的な母親の強さそして優しさ、悲しみへの処し方、広場の光景から想起される夫との思い出、母親のハチハニー。たった7ページの短編だが、様々な読み方ができる。自分の国からかけ離れているからこそ、より内省的になり、自分と対峙することが可能になるのであろう。外部と出くわすことで、背中を押してくれることがある。同じ時間を生きながらも、場所が違えば人は何と違った生き方をするものか。それを知るだけでも、自分の外の世界に触れる意味はある。


吉本ばななの短編の中で、一番好きな作品になった。




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