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『針と糸』小川糸

無性にエッセイが読みたい時がある。それが外国の日常を切り取っていたり、文化的考察となると尚更手が出てしまう。台北紀伊國屋で平積みにされていた『針と糸』を購入。小川糸さんのエッセイだ。ドイツに住んでいた時の外国人としての視点や文化的考察、母親との葛藤などが綴られている。


「四十代の、大きな目標ができた。この先、どこでどんなふうに生きていくのかはわからないけれど、人生のある時期を、日本から離れて暮らすのもいいのではないかと考えたのだ。そうすれば、より日本を客観的に見ることができるし、今まで当たり前と思って気づいていなかった、いい面にも気づけるかもしれない。ただ小説を書く人で終わるのではなく、人として生きていく力というか、人間としてもっとコクのある人になりたいという想いもある。」

この箇所はとても共感する。歳を取るにつれて少しずつ保守的になっていく自分がいる。日本の良さもたくさんあるが故に日本を離れることにあまり意味を見いだせなかった時もあった。それでも異文化に惹かれてしまう自分を発見する。ただただ、違うものに触れたい。当たり前だと思っていることをひっくり返してみたい。コクのある人間になれるかはわからないけれど、自分をマイノリティの側に置きたい。海外における1年以上の滞在は今回が3カ国目だが、日々新しい発見がある。きつい思いをすることも少なくないが、その分得られるものも多い。やはり、時として自分を裸にする経験が必要なのだと思う。


著者はある小さな出来事がきっかけでベルリンに住み始める。


「人々がとても自由に、楽しそうに暮らしている姿が印象に残った。中でも、長い坂道を女性が自転車で颯爽と下りてくる姿は、今でもはっきりと脳裏にやきついている。その瞬間、この町にはきっと何かある、そんな直感のようなものを感じ、以来、足繁くベルリンに通うようになった。ほんの一瞬の出来事が、人生に多大な影響を及ぼしたのである。」

一瞬の出来事が、偶然が、人生を変えることがある。ここの描写はとても生き生きとしていて、自転車に乗っている女性の姿が像として立ち上がってくる。5年前に行ったドイツ旅行を思い出した。確かに人々にゆとりがあって、ゆったりと時を過ごしていた印象がある。全体としてとても豊かな感じがした。残念ながらベルリンはまだ未訪だけれど、ヨーロッパで一番訪れたい都市である。ヨーロッパの友人は皆口を揃えてベルリンの独特さ、魅力を語る。今は特にスタートアップが熱いらしく、シリコンバレーの次はベルリンらしい。多和田葉子も塩田千春も住んでいる。旅行ができるようになったらまずはベルリンを訪れようと思う。思わず本棚の関口存男の文法書に手が伸びた。

 

“Hari to Ito” (Needles and Threads) by Ito Ogawa

This is a travel essay by Ito Ogawa. She reminisces about her stay in Berlin for some years as a language student and a writer as well as her complex relationships with her late mother.


In 2008, her work took her to Berlin for the first time, which would change her life. She was strongly impressed by the people living there, who seemed to be enjoying their lives with freedom and joy. Above all, a woman on a bicycle coming down a long slope dashingly left a strong impression on her and made her think intuitively that Berlin has “something”. Some years later, she was living in Berlin by herself.


I can relate to her in that one tiny incident can change one’s life drastically. More often than not, intuitions are right, and we should listen to what our guts say. She decides to go to Germany with a student visa in her 40s. Her essay is liberating because it reminds us of one very important thing in life: if you want to do something, just do it. Follow your instincts. Carpe Diem.

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